大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)4号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件発明の特許請求の範囲の記載及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 右当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載及び要旨(審決の理由の要点1)並びに成立に争いのない甲第八号証(本件訂正公報)によれば、本件第一発明は、一般の家庭に普及するテレビジヨン受像機(ラスタ走査陰極線管デイスプレイを用いるもの)に接続して、そのスクリーン上でテレビジヨン・ゲーム及び訓練を行うための装置に係り、その構成を右当事者間に争いのない本件第一発明の要旨(特許請求の範囲第一項の記載に同じ。)のとおりとする発明であつて、その概要は、ラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上に第一の記号と第二の記号を表示し、そのうち第一の記号について使用者の操作による移動制御を可能とし、かつ、該移動制御の可能な第一の記号が第二の記号と一致したときに第二の記号が移動するようにするための複数の手段((b)ないし(e)構成)を組合せてなる装置ということができる。

三 取消事由に対する判断

1 取消事由(1)について

該取消事由に係る当事者間の争点は、要するに、第一引用例にも、同引用例記載のミサイルと目標物(前掲甲第八号証及び成立に争いのない甲第三号証に徴すれば、それぞれ、本件第一発明の「第一の記号」と「第二の記号」に相当することが明らかである。)の一致で目標物が移動する点の開示があるか否かにあるところ、原告が右の開示があるとする理由は、<1>(イ)本件第一発明の(e)構成にいう第二の記号の「移動」には目標物が消滅する場合も含むと解されるところ、(ロ)第一引用例にもミサイルと目標物の一致で目標物が消滅する点(閃光の発生)の開示がある、<2>仮にそうでないとしても、第一引用例の記載に徴すれば、同引用例にもミサイルと目標物の一致で目標物が移動する点(閃光の発生を除く。)の教示がある、という点に帰するものと解されるので、右原告主張の点について順次検討する。

(一) まず、右<1>の(イ)の点について判断する。

一般に特許請求の範囲に記載された用語は、明細書に格別の意義付けをする記載が存する等の特段の事情がない限り、通常の用語の理解に従つて解釈するのが相当であるところ、前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載に徴すれば、特許請求の範囲の記載上「移動」なる語が用いられているのは、本件第一発明の(e)構成に係る「…前記第一と第二の記号が一致したときに、前記第一の記号に従つてラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上に於ける前記第二の記号を移動を行わせるための手段」との記載中と、(c)構成に係る「該第一の記号をラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上で移動させるために前記電気信号を変更する…手段」との記載中の二か所であり、その文理に照らし、いずれも、スクリーン上における記号の位置の変化(変位)という、通常の意味で用いられているものと解されるし、また、前掲甲第八号証によつて認める本件発明の明細書に徴しても、明細書中の「移動」という語はすべて位置の変化(変位)の意味で用いられていることが認められ、「移動」なる語が、原告主張の「消滅」の意義をも含むとの格別の意義付けをした記載がないのはもとより、消滅を含む意味で用いられていることを窺わせしめるような記載も見出せない。したがつて、本件第一発明の(e)構成にいう「移動」は、文字どおり、位置の変化(変位)を意味し、消滅なる概念を含まないものと解するほかはない。

もつとも、原告は、本件発明の明細書中には、(e)構成に係る実施例として、第一の記号と第二の記号の一致検出出力に応答してクローバ回路を駆動し第二の記号の発生回路を不能化させることにより第二の記号を消滅させるもの(第17A及びB図)(原告のいう第三のタイプの実施例)が記載されており、(e)構成が右実施例を包含するものである以上、同構成にいう第二の記号の「移動」は消滅をも含むと解すべきである旨主張する。たしかに、前掲甲第八号証によれば、本件発明の明細書には、右原告の主張に沿う内容のボーリングゲームが例示され、「プレーヤーはジヨイステイツク171を“投げる”ことによつてボール170をボーリングする。ピン(一つ又は複数)がヒットされるならばそれらのピンは消失する。」(本件訂正公報三一欄三五行ないし三八行)(なお、第一の記号に相当するのはボール170、第二の記号に相当するのはピン(スポツト)169)と記載されていること、また、これを受けて「上記に示された色々なゲームは、本発明による概念を用いてプレーされることのできる多くのゲームのうちのほんの若干である。」(同三二欄一三行ないし一五行)と記載されていることが認められる。したがつて、明細書の記載上は、原告のいう第三のタイプの実施例が恰も本件第一発明の実施例であるかの如く記載されている観のあることは否めないが、本来、明細書に開示された発明のうち、どの範囲で特許請求をするかは特許出願人において決定し得ることであり、その範囲は特許請求の範囲の記載によつて画されるところ(特許法三六条二項四号)、既に認定説示したところから明らかなように、右の例は、第二の記号の「移動」の点で、明らかに、特許請求の範囲の記載を逸脱するものというべきであり(因みに、前掲甲第八号証に徴すれば、原告のいう第一のタイプ実施例(第11AないしD)が第二の記号の位置を変化させるものであることはもとより、第二のタイプの実施例(第12A及びB図)も、移動方向を反転させたうえ第二の記号の位置を変化させるものであることが認められる。)、かかる記載の存在を理由に(e)構成の「移動」に消滅の場合をも含ませるべきであるとする原告の主張は、到底採用し得るところではない。この点に関連して、原告は、物体が高速で移動するときに物体が消滅したように観察されることを例に挙げて、機能としてみるときは、「移動」の日常語としての意味を根拠として「消滅」を含まないと解するのは相当でないとも主張しているが、前記認定事実からも明らかなように、第三のタイプのものは、クローバ回路により第二の記号の発生回路を不能化することにより、文字どおり同記号を消滅させるものであつて、第二の記号を高速で移動させるものではないから、原告主張の点は「移動」を通常の意義のものとして理解することを妨げるものではない。更に、原告は、第三のタイプのものは本件第一発明の実施例ではないとの被告の主張を捉えて、本件発明の特許請求の範囲は明細書の記載を受けてその必須要件が記載されている筈であり、審決もそのような理解に立つて、これを第一引用例と対比し、かつ、その記載が特許法三六条四項所定の要件を充足していると判断しているのであるから、被告のように主張することは、本訴において審決の認定した本件発明の要旨と異なる要旨を主張することになるのみならず、明細書の記載を受けて特許請求の範囲を記載すべきものとする特許法の規定にも反する旨主張しているが、審決が第三のタイプのものを本件第一発明の実施例と認めたうえで、その認定判断をしているものと確認するに足りる証拠はないし、先に説示したとおり、明細書に開示された発明をどの範囲で特許請求するかは特許出願人において決定できるものと解されるものであり、また、特許法三六条四項の規定も、明細書に開示された発明のうちの一部を特許請求すること自体を禁じる趣旨ではないと解されるから、そのことの故に同項違反の問題が生ずることはない。また、(e)構成にいう「移動」の意義は、原告指摘の第三のタイプの実施例に関する記載があつても、明細書の記載から前記認定のとおりのものと十分に理解し得るものであるから、その観点からも、同条に違反することはない。したがつて、この点の原告の主張も採用しがたい。

そうであれば、前記<1>の(イ)の点に係る原告の主張は失当であり、したがつて、これを前提とするものであることが明らかな(ロ)の点についての判断をするまでもなく、<1>に関する原告の主張は採用しがたい。

(二) 次に、<2>に関する原告の主張について判断する。

第一引用例に審決摘示(審決の理由の要点2(一))の記載があることは当事者間に争いがなく、右事実及び前掲甲第三号証によれば、同引用例には、従来のテレビジヨン受像機と接続して、ミサイル(前記のとおり、本件第一発明の「第一の記号」に相当する。)と目標物(同じく「第二の記号」に相当する。)をそのスクリーン上に表示し、ミサイルについては制御棒(手)による操作により、目標物については、制御棒(手)による操作又は選択されたプログラムにより、右スクリーン上で変位できるようにすることによつて、ミサイルによる目標物の射撃をシユミレートするための装置(右各機能を実現するための具体的な回路構成を含む。)に係る記載があること、また、ミサイルと目標物の一致を検出するための一致回路が設けられ、ミサイルと目標物が一致したときは、ミサイルが右一致回路の駆動により閃光され、これが正確な採点表示を与えることを可能にする点の記載があることは認められるが(なお、右閃光の意義、殊にミサイルのみの閃光に限られるか否かの点は争いがあるが、この点を巡る議論は、前記(一)で述べたとおり、その前提となる閃光の発生、すなわち記号の消滅が本件第一発明の(e)構成にいう「移動」に含まれるとは解されない以上、確定の要のないものであるから、ここでは立入らない。)、ミサイルと目標物が一致した際に、スクリーン上で目標物を変位させる点の示唆があるものとは認められない。

原告は、前掲甲第三号証によつて認められる、第一引用例中の「ミサイルおよび目標物に対応する内容の絵の変位は、たとえば、絵により(「手により」の誤訳と認める。)および/または意図されたプログラムに従つて、別々に行われ、そのため、誘導ミサイルを静止状態のまたは移動可能な目標物に向けて操縦する上での実際の移動条件ができるだけ正確に再現できる。」(訳文二頁一八行ないし三頁三行)、「この発明によれば、またミサイルおよび目標物の移動に関するテレビジヨン表現に背景の像を混ぜてかつこのようにして地面上を移動する目標物およびその上の大気空間を飛行するミサイルの画像スクリーン上に実生活的な像を作り出すことが意図される。」(同四頁一八行ないし五頁三行)等の記載を援用するなどして、実生活的な像では、ミサイルによつて射撃されると目標物の移動が変更されるのであるから、同引用例は、ミサイルと目標物の一致の際に、目標物に移動を生じさせる機能をも、自明の機能として教示しているものと認められるべきである旨主張するが、右証拠に徴すれば、原告指摘の記載中、目標物の移動に関する記載は、例えば、前記第一引用例の訳文二頁一八行ないし三頁三行の記載中の「ミサイルおよび目標物…の変位は…別々に行われ」との記載からも窺われるように、いずれもミサイルと目標物が一致する前の、ミサイルの移動とは別々に実現されるべき目標物の移動についてのものにすぎず、実生活に近い像を作り出すとの記載についても、ミサイルと目標物に対する背景像を表示して実感を強めるという趣旨のものにすぎないことが明らかであるし、また、原告の主張における、実生活的な像での、ミサイルによる射撃の際の目標物の「移動の変更」が具体的に何を意味するのか必ずしも明らかでないが、原告も主張するように、第一引用例記載の装置がミサイルによる目標物の射撃のシユミレーシヨンのための装置であることから強いて推しても、移動中の、例えば戦車等の目標物がミサイルの命中により撃破され、直ちに停止又は消滅することが考えられる程度で、その際の目標物の移動(変位)まで通常、想起されるものとは認めがたく(なお、変位とは位置の変化を伴うことを不可欠とする概念であるから、消滅はもとより、直ちに停止する場合もその概念には含まれないと解される。)右装置の目的からしても、そのように目標物を制御すべき必要性があるとも認めがたい。

そうであれば、前記<2>の原告の主張も採用しがたい。

(三) そして、第一引用例に、本件第一発明の(e)構成における第一の記号と第二の記号の一致の際に第二の記号が移動する点が開示されているものと認められない以上、同引用例に本件第一発明の(e)構成に相当する構成の記載がないとした審決の相違点の認定に誤りはなく、原告主張の取消事由(1)は理由がない。

2 取消事由(2)について

該取消事由において、原告は、第二及び第三引用例の記載を前提とすれば、本件第一発明の(e)構成は第一引用例から容易に推考し得る旨主張するところ、右各引用例に審決摘示(審決の理由の要点2の(二)、(三))のとおりの記載があることは当事者間に争いがなく、その記載事項が周知であることも当事者間に争いがないが、両引用例は、その記載内容自体に徴し、テレビジヨン・ゲーム装置をどのように構成するかを示唆するものではなく、もとより、ミサイルと目標物の一致の際に目標物を移動させる点に関する示唆があるわけではない(むしろ、それを実現するための手段であるにすぎない。)ことは明らかである。そして、第一引用例にも、ミサイルと目標物の一致の際に目標物を移動させる点についての開示が認められないことは前記1認定のとおりであり、また、前掲甲第三号証の全記載に徴しても、右のような構成をとるべき課題の存在自体が同引用例に示唆されているものとも認められない以上、第二及び第三引用例を前提としたとしても、本件第一発明の(e)構成に容易に想到し得るものとは認めがたい。この点に関して原告が主張するところは、右の述べたような点の示唆がない以上、要するに、本件第一発明の(e)構成の機能を実現するためには、第一引用例における目標物の記号発生のためのモノステーブルマルチバイブレータ2、2を第二引用例記載の電圧制御パルス幅可変型のモノステブルマルチバイブレータで置換し、その入力電圧を第三引用例記載の三角波発生回路の出力で駆動するように構成したうえ、ミサイルと目標物の一致によつて前記の三角波発生回路を始動させるようにすればよいといつているのに等しく、まさに、本件第一発明の開示に接して始めて想到し得ることを述べているにすぎないというほかない。なお、原告は、審決が第二及び第三引用例を本件第一発明と直接対比している点を非難する如くであるが、いずれにせよ、この点が審決の結論に影響を及ぼすことはない。

そうであれば、原告主張の取消事由(2)も理由がない。

3 取消事由(3)について

(一) 該取消事由の主張において、原告は、本件第一発明がその構成を機能的に記載したものであることから、第四引用例との比較に際し、機能のみで対比をすれば足りるとの立場を前提とすることが明らかであるから、まず、この点について検討する。

前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載に徴すれば、本件第一発明は、その構成のうち(b)ないし(e)構成を「…するための手段」又は「…する手段」という形式で記載しているところ、本件第一発明の特許請求の範囲の記載内容自体からして、これらが単に機能又は結果のみを記載したものではなく、本件第一発明の装置を構成する各構成(手段)を機能によつて特定したものであること、また、そこにいう「手段」がいずれも、所定の電子的機能を実現するための電子回路手段を指すことが明らかである。そして、前掲甲第八号証によれば、本件第一発明における右各手段に対応する回路構成の具体例が発明の詳細な説明の項及び添附図面に記載されており、この記載により当業者は右各手段を容易に実施することができるものと認められる。すなわち、「ラスタ走査陰極線管デイスプレイに結合されると、そのスクリーン上に第一の記号を表示する電気信号を発生するための第一の手段」((b)構成)及び「ラスタ走査陰極線管デイスプレイに結合されると、そのスクリーン上に第二の記号を表示する電気信号を発生するための第二の手段」((d)構成)に対応する回路構成は添附図面の第4、第5図、第7、第8図及び発明の詳細な説明の項のこれに対応する記載部分(本件訂正公報九欄一二行ないし一二欄二九行、一三欄二〇行ないし一四欄一九行)に、「第一の記号をラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上で移動させるために電気信号を変更する操作可能な制御手段」((c)構成)に対応する回路構成は、添附図面の第9AないしC図及び発明の詳細な説明の項のこれに対応する記載部分(同一五欄二九行ないし一六欄三二行(なお、第5図及び第8図も参照))に、「第一の電気信号を発生する手段によつて第二の電気信号を発生する手段を制御して、それにより第一と第二の記号が一致したときに、第一の記号に従つてラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上に於ける前記第二の記号の移動を行わせるための手段」((e)構成)に対応する回路構成は、添附図面の第11A、C、D図、第12A図及び発明の詳細な説明の項のこれに対応する記載部分(同一七欄四三行ないし二〇欄二九行、二四欄一五行ないし二六欄三五行)に、それぞれ記載されていることが認められる。

したがつて、本件第一発明の(b)ないし(e)構成はいずれも、そこに記載された所定の電子的機能を実現するための電子回路手段であつて、かつ、具体的な回路構成の裏付けを有するものであるから、引用例との対比に当たつても、原告主張のように、単なる機能や結果のみで対比すべきでないことは明らかというべきである。

(二) そこで、第四引用例についてみるに、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証の一ないし三によれば、第四引用例には、計算機(コンピユータ)に接続された陰極線管デイスプレイのスクリーン上で玉突きゲームを模擬するプログラムを組み、これによりゲームを実施したことの報告、具体的には、陰極線管デイスプレイ上に表示された右玉突きゲームの実施状況を示す連続写真と、同ゲームの実施の仕方及びその場合のキユー(突き棒)及び三つの玉の動きが説明されているほか、(なお、具体的なライトペンの働きと用い方、ゲームの際のキユー及び玉X、Yの動き等の点は、ほぼ、審決を取り消すべき事由3(二)において原告が主張するとおり。)、プログラムの働きの一部、すなわち、これが、三つの玉の運動方程式を実時間で解き、玉の刻々の位置や壁との距離を検出し、衝突の条件を当てはめ、次の運動の初期条件を算定し、運動方程式を解いていくものであること等の記載があることが認められる。右によれば、第四引用例の記載は、要するに、玉突きゲームをシユミレートするためのプログラムにより計算機を駆動させ、陰極線管デイスプレイ上で玉突きゲームを実行したことの結果報告にすぎず、成立に争いのない甲第一〇号証の記載を参酌しても、そのために必要な装置の構成をいかにするかという点については、計算機、ライトペン及び陰極線管デイスプレイを用いることを除き、本件第一発明の構成に対応するような電子回路手段及びその組合せ、その裏付けをなす具体的な回路構成その他当業者が容易に実施できるように記載された技術的事項を何ら見出すことはできず、また、その点がすべて当業者に自明であることを確認するに足りる証拠もないから、陰極線管デイスプレイの差異の点を措いたとしても、かかる記載中に、原告が主張するような本件第一発明の全構成、殊に(e)構成が開示されているものとは到底認められず、また、同引用例の記載から本件第一発明の(e)構成が容易に推考し得るものと認めることもできない。

(三) そうであれば、第四引用例に関する審決の認定判断を誤りとすることはできず、原告主張の取消事由(3)も理由がない。

4 取消事由(4)について

前記3で判示したとおり、本件第一発明は、その構成のうち(b)ないし(e)構成については、その構成(電子回路手段)を、その機能によつて特定する、いわゆる機能的クレームの形式をとるものである。そして、前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載及び前掲甲第八号証に徴すれば、審決も指摘するとおり、本件第一発明が、これを構成する各手段((b)ないし(e)構成)の内容をなす各回路構成自体に格別の技術的意義を有するものではなく、各手段に特定の機能を持たせ、これを組合せることによつてその目的を達成した点に技術的意義を有するものであり、各手段相互の対応関係も特定されているものであることが明らかである。加えて、本件発明の明細書には、前記3で認定したとおり、当業者が容易に実施できる程度に右各構成に対応する具体的回路構成が開示されているのであるから、この点に関して、本件第一発明の特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとした審決の認定に誤りはない。

原告は、本件第一発明の特許請求の範囲の記載が、テレビジヨン装置をビデオ・ゲームとして利用することそれ自体ともいうべき広範な目的を達成するための手段をいわば独占するにも等しい極めて広範なものであるとして非難するが、まず、目的の点は、前掲甲第八号証によれば、本件発明の明細書には、多数の目的が並記されるとともに、その中に「本発明の他の目的は、個人個人が彼の機敏さ、熟練度、手の器用さ、及び可視的鋭敏さを、自動的に制御されるビデオ・デイスプレイに対して、戦わせるようにした装置を提供することである。」(本件訂正公報五欄二行ないし五行)との記載があることが認められたこと及び前記二で認定した事実に徴すれば、本件第一発明の目的が、ラスタ走査陰極線管デイスプレイ上に二つの記号を表示し、そのうち一方の記号を使用者による操作により移動制御できるようにし、該操作によつて、これを他方の記号と一致させたときはこれに応じて該他方の記号が動くように装置を構成し、この点をゲームとして利用しようとする点にあることは明らかであり、他方、本件発明の明細書に記載されたその他の目的はいずれも、その前提をなす、又は、副次的な目的にすぎないことがその内容自体に徴し明らかであるから、本件第一発明の目的をもつて、原告主張のような広範なものと捉えることは相当でないし、本件第一発明の特許請求の範囲の記載内容等に徴し、その記載を原告主張のように右目的のための手段を独占するに等しい不当なものともなしがたい。また、(e)構成について原告が主張するところは、その「移動」が消滅等を含むことを前提とするものであり、その前提自体が誤りであることは既に認定説示したところから明らかであるから、この点に関する原告の主張も採用しがたい。

そうであれば、原告主張の取消事由(4)も理由がない。

四 以上のとおり原告主張の取消事由はすべて理由がなく、ほかに審決を取り消すべき違法の点を見出すこともできないから、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編注〕本件発明の特許請求の範囲の記載は左のとおりである。

1 (a)少なくとも一人の参加者によつて操作されるようにラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上に記号を発生するためのテレビジヨン・ゲーム及び訓練装置であつて、(b)ラスタ走査陰極線管デイスプレイに結合されると、そのスクリーン上に第一の記号を表示する電気信号を発生するための第一の手段と、(c)該第一の記号をラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上で移動させるために前記電気信号を変更する操作可能な制御手段と、(d)ラスタ走査陰極線管デイスプレイに結合されると、そのスクリーン上に第二の記号を表示する電気信号を発生するための第二の手段と、(e)前記第一の電気信号を発生する手段によつて前記第二の電気信号を発生する手段を制御して、それにより前記第一と第二の記号が一致したときに、前記第一の記号に従つてラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上に於ける前記第二の記号の移動を行わせるための手段と、から成る前記装置。(なお、(a)、(b)、(c)…は、説明の便宜上、当裁判所において付記したもので、以下、各構成を「(a)構成」「(b)構成」「(c)構成」ともいう。)

2 標準的なラスタ走査陰極線管デイスプレイと組合わせて、該ラスタ走査陰極線管デイスプレイのスクリーン上にデイスプレイされるべき記号を表す信号を発生するための前記特許請求の範囲第1項に記載の装置であつて、同期信号を発生するための手段と、或る第一ののこぎり波を発生するための手段と、或る第二ののこぎり波を発生するための手段と、前記第一ののこぎり波を発生するための手段に結合されて、前記第一ののこぎり波の予め定められたスライスに比例した第一の電流パルスを発生するための手段と、前記第二ののこぎり波を発生するための手段に結合されて、前記第二ののこぎり波の予め定められたスライスに比例した第二の電流パルスを発生するための手段と、前記第一及び第二の電流パルス発生手段に結合された一致ゲートと、前記一致ゲートからの出力と前記同期信号を合計するための手段と、RF発振器と、前記RF発振器の出力を前記の合計された信号で変調するための手段と、前記変調された信号を前記デイスプレイへ印加するための手段と、から成る前記装置。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!